40代、われは主婦なり伸びんとす。

感受性やや強め40代のゆるらかブログ。

しごとのはなし。①

私はここ十数年事務的な仕事をしている。
が、私の社会人スタートはエステティシャンだった。


特に憧れていたわけではなく、たまたま話が舞い込んできたことが始まり。
事務の資格しか持っておらず、美容の専門学校を出たわけでもないという、ど素人な人間が最初から現場でアシスタントという強行なものだった。

元々人を喜ばせることは好きだったので、性格的には向いていたのだと思う。
アシスタントながらに、お客様が笑顔で帰っていく姿を見るのは気持ちが良かった。
エステが始まるとグッスリ眠ってしまうお客様も多く、信頼ってすごいなと感心さえしていた。

(その当時の私には他人の前でグッスリ眠るなんて怖いことだと思っていたので。これはいまだに治らず残っていて、相当信頼している人の前じゃないと深く眠れない。)


世の中のエステのイメージは、きっとこうだろう。

華やかで綺麗な女性達が沢山働いている世界
ゆったりした空気に心地よいBGM、心安らぐ香りに包まれた空間。
その中で極上の癒しやサービスを受ける・・・


しかし、私の働いていた現実は違う。

華やかで綺麗な女性達のほとんどが、お客様に見えない場所でタバコを吸っていた。
自分の働いている場所だけかと思ったら、大きな集まりがあった時に、かなりの割合の女性がタバコを吸っていたので、驚いたのを覚えている。
決してタバコを悪だと言っているわけではないのだが、ギャップにショックを受けた。
私は今まで生きてきて1度も吸いたいと思ったことがないので。


ゆったりした空気、これは、お客様が居る時間だけである。その前後は片付けに準備にドタバタ。
引き出しや扉を足で閉めるなんて序の口。
ぶつかっても謝らない。
これも、私にはショックだった。
忙しいのは分かるが、何て乱暴なのだ...と。


心安らぐ香り、これもお客様の居る時間のみ。
上記のように、タバコ臭がすごいのを隠すために香水や消臭剤をつけたり、カップラーメンの香りを消すために換気をしたりする。
タバコ臭がどのくらいの時間で消えるかも心得ていて、お客様が来る時間から逆算して吸っていた。


極上の癒し&サービス、これについては、きちんとしたルールがあるのでその通りに行われていたように思う。
ただ、ここで癒しを与えるだけではないのが現実。
自社の商品を売らなくてはならないのだ。
いかに気持ちよくなってもらって商品を買ってもらえるか、これが重要になる。
本当に素晴らしい商品も勿論あるのだが、正直そこまでではない物もあるわけで。
それでも売り付けなければならないというのが私には耐えられなかった。
化粧品はラインで使ってもらってなんぼの世界。
これには疑問しか抱けなかった。


大きなショックや小さな違和感、ゆずれない理念等から、面倒を見てくれていた店長さんや先輩には申し訳ないが、私は早々に辞めることにした。

若かった私は、うまく言葉で伝えられる自信がなかったため、手紙を書いた。


勘の良い店長さんは、手紙を渡した時点で何かを察したらしく、数分後に別室に来るように言われた。

二人きりになると、店長さんは、「手紙、読んだよー。」と言って席を立ち、タバコに火を着けた。

怒られるのではないかという緊張感に黙っていると、「ゆるらかは推しは弱いけど、お客さんに気に入られる人柄があるから、3年で店を持たせたかった。絶対にうまくいく自信もある。」
と話してくれた。

私の中では何を言われても考えは変わらなかったので、ただただ「すみません。」と答えていた。

店長さんは、その後は多くを語らず「分かった。」と言ってくれた。
タバコを吸い終わったら行くから先に出るように言われ、席を立ち部屋を出ようとした時、ふと気になりチラッと店長さんを見ると、こちらに見えないように泣いていた。

傷つけてしまった?
裏切ってしまったのか?


その時の私にはどうしたら良いか分からず、最後の日も気の効いた御礼は言えなかった。
私はすでに次の仕事が決まっていたのだが、店長さんは「会いに行くから。」と笑顔で送り出してくれた。
これが大人の対応なのだと思った。


エステが悪いわけではない。
職場のスタッフが悪かったわけでもない。
ただ、私には合わなかった。
それだけ。
やってみなかったら分からなかったこと、見えなかった世界。
それを体験できただけでも私は幸せ者なのだろう。